猫の紐状異物による腸閉塞
今回は以前手術をした症例をご紹介したいと思います。
・猫
・1歳10ヶ月
・雑種ラグドール
・去勢雄
■ 主訴
急な元気消失と嘔吐を主訴に来院。前日までは通常どおり食欲・排便がありましたが、当日朝より急激な悪化が見られました。
飼い主さまからの稟告で「もともと紐を舐めたり齧る癖があり、細い紐で遊んでいた可能性がある」とあり、紐状異物を疑って精査を進めました。
■ 紐状異物とは?
紐・糸・リボン・おもちゃのひも部分など細長い異物をまとめて紐状異物と呼びます。
紐状異物が危険な理由
猫は紐を嚙んだまま飲み込んでしまうことが多く、
1つの端が舌下・胃・幽門部に固定されると、腸が“アコーディオン状(蛇腹状)”に縮み、以下を起こします。
- 腸が引き絞られ血流が低下
- 腸壁の壊死
- 腸穿孔 → 腹膜炎
- 急速にショックに進行
他の誤食よりも 進行スピードが速く、緊急手術が必要になるケースが多いのが特徴です。
■ 来院時の状態
- 元気消失
- 食欲廃絶
- 嘔吐
- 高体温
脱水も見られ、急性の腹部疾患を疑いました。
■ 検査
① X線検査(レントゲン)
- 小腸のガスが不規則に分布
- “アコーディオン状”の腸のひきつれを示唆する像
※ 紐自体はX線に写らないため、腸の形状変化を読むことが診断のポイント。
② 超音波(腹部エコー)
- 腸管の連続的なアコーディオン像を確認
- 腸運動の低下
- 胃腸内容物の鬱滞
- 腸間膜リンパ節腫大
🔍 ③ 血液検査
- 軽度脱水
- 下痢嘔吐、脱水に伴う電解質異常
- SAA(炎症マーカー)の上昇
■ 診断:紐状異物による腸閉塞
画像検査の所見と臨床症状、飼い主さまの申告から確定診断し緊急手術を行いました。


△腹部レントゲン画像 小腸の集積、不整な形の消化管ガスが認められる
■ 治療:開腹手術による異物摘出
⚠️手術中の写真を載せています。苦手な方はお戻りください⚠️

△指で示している所で、腸が絞扼しているのがわかります。

△摘出した紐
● 術中所見
- 十二指腸〜空腸の広範囲にわたって腸管が弛緩・ひきつれ
- 異物は空腸〜回腸という領域に連続して存在
- 腸壁の血流は保たれており壊死はなし
● 手術内容
- 絞扼が強い部位を中心に4箇所の小切開を行い紐を除去
- 腸管の血流を細かく評価
- 壊死部分がなかったため切除は回避
- 腹腔内を洗浄し閉腹
紐状異物は 1か所だけ切開しても引き抜けないことが多く、今回は複数の腸切開が必要でした。
■ 術後経過
- 手術翌日:活動性の上昇
- 2日目:飲水・リキッド食を少量から開始
- 3〜4日:一般状態安定、さらにフード量を増量
- 1週間で退院
その後の外来通院でも腸管の動きは良好で、現在は元気に生活しています。
■ 紐状異物の予防
飼い主さまのご家庭では以下が特に重要です:
- ① 紐・糸・リボン・ヘアゴムを猫の前に置かない
- ② おもちゃは飼い主監視下のみで使用
- ③ キャットタワーの紐部分がほつれてきたら早めに交換
- ④ 嘔吐・食欲不振が急に起きたら、様子を見ずにまずは動物病院へ
紐状異物は誤食の中でも最も危険な部類で、発見が遅れると腸壊死や腹膜炎を引き起こします。最悪の場合命に関わることもあります。
今回は症状が現れてからすぐに来院・治療を行ったことで、消化管壊死なども起こさず術後の経過も問題なく無事に退院することができました!
同じような症状が見られた場合は、当院を受診ください。