その『パキッ』という音、大丈夫? 膝蓋骨内包脱臼
膝蓋骨内方脱臼(MPL: Medial Patellar Luxation)は、犬の小型犬に最も多く見られる後肢の整形外科的疾患です。
膝蓋骨(膝のお皿)が、本来はまるべき大腿骨の滑車溝と言う場所から内側に外れてしまう病気です。多くの場合、外傷がなく生まれつき、または生後早期に発生するため、遺伝的要因も強く関与していると示唆されています。
⚫︎膝蓋骨の役割
膝の曲げ伸ばしをスムーズに行い、前十字靭帯への負担軽減というブレーキの役割も担っています。脱臼が起こると、これらの機能が損なわれ、痛みや歩行異常につながります。
⚫︎発症の原因(複合的な要因)
MPLは一つの原因ではなく、複数の要因が複合的に合わさって発生します。その多くは骨の形態学的異常によるものです。
⚫︎重症度の分類(シングルトン分類)
MPLの重症度は、シングルトン分類(グレード分類)によって評価されます。
| グレード | 状態 | 特徴 |
| グレード1 | 潜在的脱臼 | 普段は脱臼していないが、手で外すことができ、手を離すと正常に戻る。 |
| グレード2 | 間欠的脱臼 | 普段ははまっているが、膝の屈伸や徒手で外れる。同様に戻すことができる。 |
| グレード3 | 恒常的脱臼(可復性) | 基本的に脱臼しているが、手で元の位置に戻すことができる。手を離すと再び脱臼する。 |
| グレード4 | 恒常的脱臼(非復元性) | 常に脱臼しており、手を使っても元の位置に戻すことができない。 |
一般的にグレードが高いほど重症ですが、必ずしも症状の程度と一致するわけではありません。

△正常なレントゲン画像です。

△両方ともに膝蓋骨が外れてしまっているレントゲンです。黄色が膝蓋骨です。正しくは水色部分に位置していなければなりません。
⚫︎症状と進行
多くのMPL患者では、無症状で経過することもありますが、進行すると以下のような症状や合併症を引き起こします。
具体的な症状
- 間欠的跛行(ケンケン): 時々片足を挙げたり、スキップしたりする。
- 挙上: 痛みのために、足を完全につくことができない状態。
- 異常な姿勢: 足を投げ出す「お姉さん座り」、または不自然に足を後ろに伸ばす仕草。
合併症
- 関節炎と痛み:
- 脱臼を繰り返すことで、膝の硝子軟骨(ツルツルの軟骨)が削れ、その下の骨が露出し痛みが発生します。
- その後、線維軟骨に置き換わりますが、最終的に関節炎が進行し、中高齢になってから痛みが出ることがあります。
- 前十字靭帯断裂: 膝への負担が増加し、前十字靭帯が断裂する可能性があります。
- 二次的な痛み: 患肢をかばうことで、腰や他の足(前肢など)に負担がかかり、痛みを起こすことがあります。
⚫︎診断
- 触診(徒手検査): 膝蓋骨の脱臼の程度と、手で戻るかどうかを確認し、グレードを判定します。
- レントゲン検査: 膝蓋骨の位置、大腿骨や脛骨の変形、滑車溝の深さ、および関節炎の有無を評価します。
治療法
治療法は大きく内科療法と外科療法に分かれますが、根本的な治療は外科療法です。
1. 外科療法(根本的治療)
関節炎の予防のため、脱臼回数が少ない時期、つまり若いうちに手術を行い、膝蓋骨を外れないように安定させることが理想的です。再脱臼を防ぐため、複数の術式が組み合わされます。
| 術式 | 目的 |
| ① 滑車溝形成術 | 溝を深く削ることで、膝蓋骨がはまるべき場所をしっかりと形成する。 |
| ② 脛骨粗面転移術 | 膝蓋骨靭帯が付着する脛骨粗面を外側に移動させ、靭帯の引っ張る方向を修正する。 |
| ③ 内側支帯リリース術 | 内側に膝を引っ張る筋肉や靭帯の緊張を緩める。 |
| ④ 外側支帯縫縮術 | 外側の組織を縫い縮め、外側からの安定性を高める。 |
| ⑤ 内旋制動術 | 脛骨が内側に捻じれるのを防ぐために、外側から引っ張り固定する。 |
| ⑥ 矯正骨切り術 | グレード4などの重症例で、骨の重度のねじれや変形を治すために、骨を一部切除して角度を矯正する。 |
両側脱臼の際には両側同時に実施することを推奨しています。
ご自宅のわんちゃんの歩き方や座り方に異常が見られる場合や膝蓋骨脱臼の治療に悩まれている方は、当グループのような整形外科の専門医がいる動物病院までお気軽にご相談ください。